至聖三者セルギイ修道院は700年近い伝統と歴史を持ち、世界遺産にも指定されている所です。そこに約二週間滞在させて頂くという貴重な体験を致しました。
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2月20日セラフィム主教座下・長屋神父様と共に日本を出発。モスクワ空港到着後、ダニイロフ修道院隣のホテルに宿泊。ソフリノ聖器物工場や市内の救世主大聖堂などを案内して頂きました。モスクワは都市部を見ると、かつて鉄のカーテンと言われていたことが嘘のように、商業看板も多く、また日本でよく目にする外資系のレストランもあちこちに進出しており、かなりの速度で資本主義化が進んでいることが分かります。
23日、市内から滞在先であるセルギイ修道院へ向かいます。セルギイ修道院はモスクワ郊外に位置しています。沿道には落葉松や白樺並木があり、北海道と同じ風景がそこにありました。当地セルギエフ・ポサートは修道院を中心とした町で、人口は五万人ほどです。修道院には約300人の修道士が所属しています。
初日が土曜日だったので主日前晩祷に参加、沢山の参祷者、修道士、修道司祭の数には見ただけで嬉しさがこみ上げて来ました。何人かの修道士は私の姿をみると、すかさず祝福を求めに来られ、とっさのことに思わず固まってしまいました。聖歌は50〜60人位の神学生たちが左右の両脇に分かれて歌いますが(アンティフォン形式)、迫力と美しさはまるでCDを聞いているかのようで、また聖歌を活き活きと楽しそうに歌っている姿も印象的でした。
地響きがするような聖歌を耳にし、厳かに進行する祈祷を間近に接して感動していたのもつかの間、同行して下さっている輔祭さんから至聖所へどうぞと言われ、至聖所内に居られた典院パウエル神父様から「祈祷に一緒に立つように」と優しく声を掛けられ一転、大変な緊張感に襲われました。ある聖人の「真実の、永遠な、乱されることのない休息は、来世で私たちのためにとっておかれる」という言葉を思い起こしました。至聖所内の主教席のにはフェオグノスト主教座下が居られ、晩課のリティヤと早課では主教座下と大勢の修道司祭と共に祈祷に立ちました。主教座下は主教になられる前に首座主教選立式に総主教とともに来日されております。聖所の中央に並んで立ちましたが、広い聖堂に参祷者がぎっしりで、大変な熱気を感じました。何人かの子供が1人で参祷し、ローソクを献灯している姿も印象的でした。
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翌日朝5時半から、聖セルギイの不朽体の前でモレーベンが行われます。寒さに慣れたとは言いましても早朝はかなり寒いです。その寒い早朝にもかかわらず多くの信者が既に参祷しています。続いて聖体礼儀が行われます。聖入で至聖所の外に出るたびにいつも、参祷者は聖堂一杯になっておりました。最後の十字架接吻にも立たせて頂きましたが、押し寄せる群衆の中には家族連れはもちろんのこと、制服を着た軍人や警察官などもおり、正教会が国民的に受け入れられていることを実感します。また雰囲気の違いはあるにせよ、ここでもご聖体の分かち合いが行われている、という当たり前のことに感動を新たにしました。修道院内では5カ所の聖堂で祈祷が行われており、私が出たのは2カ所で、聖体礼儀にはほぼ毎日立たせて頂きました。聖体礼儀の中で読まれる司祭の読む黙唱文を、私など奉事経を見なければ唱えられませんが、修道司祭たちはそれを諳んじて覚えているのも驚きでした。
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晩祷は晩課・早課・一時課・永眠修道士の為のリティヤで、晩課・早課にはカフィズマが入り、かかる時間は3時間程で、時課経や八調経の記述通りに行われており、祈祷の構造がより分かるようになりました。
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修道士達には労働もあり、修道院内の売店で働く人、農作業をする人、宿泊所の一部では修繕が行われており、私を世話して下さった輔祭さんがペンキ塗りの作業をしておりました。これを見て、自分も神学生時代に、神学校のペンキ塗りをしたことを思い出しました。
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滞在も何日か経つと、一緒に祈祷に立った司祭など、顔見知りも多くなり、敷地の庭や聖堂内で合うと、彼らは明るく笑顔で「スパーシー・ゴスポジ!」と抱擁し互いの手に接吻する挨拶を交わすようになりました。ハリストスの福音の喜びのただ中に自分はいるのだ、という実感が沸きます。
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祈祷中、日本語の奉事経を見た何人かの修道士は、たいがい日本語の難しさに目を回していましたが、中には「正教の祈祷書を日本語に翻訳した日本の聖ニコライは偉大です。大変頭の良い方だったのですね、神様はその賜物を彼に授けたのでしょうね…」としみじみ語っていた方もいらっしゃいました。亜使徒大主教聖ニコライの偉大さを今更ながら実感いたしました。又、日本教会のことについても尋ねられ、先進国ならではの宣教の困難さがあることを伝えました。また日本は自治教会だから修道院があるものだと思っていた人も多かったです。彼らには「日本の人々が主の福音を受け入れ救われるよう、又、日本の正教会の教会数が増え、豊かになるよう神様にお祈りしますよ」等の励ましを受けました。
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祈祷中、修道士や修道司祭たちが至聖所内で痛悔をしている姿を何度も見かけました。中には若い修道士が泣きながら年配の修道司祭に痛悔しており、とても真剣さが伝わってきます。彼らの穏やかさを支えているのは、不断に繰り返される自己の内面における闘いなのだということを感じました。
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ここでの生活は、大変伝統的で祈りに秩序立てられていると同時に、自由な活き活きとした雰囲気に溢れています。窮屈に縛り付けられている訳ではなく、逆に勝手気ままな無秩序な生活でもありません。現代文明に疲弊した私たちから見れば、かえって自然な人間の姿があるといっても過言ではありません。「あなたたちは真理を知り、真理はあなたたちを自由にする」(ヨハネ伝8:32)という、ハリストスのみ言葉を思い出しました。
このような姿を、この日本でどのようにしたら実現できるのか?考えずにはいられませんでした。
ともかく大変充実した研修であり、今後も機会があれば訪れたいと思っています。
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司祭 ミハイル対中秀行
ミハイル対中神父管轄時(2002-2010年)の釧路正教会の歩み
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管轄司祭 ステファン内田圭一